ロスト・ケア 感想
他人事じゃないと感じた。
先月2月16日土曜日に発売し、第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した葉真中顕の執筆した『ロスト・ケア』(光文社発行)は、人間の心を根底から揺さぶる骨太のミステリー小説。
内容は、認知症などで寝たきりになっている老人の急死の相次ぐとある田舎町を舞台に、大手介護サービス会社で懸命に働く男性職員、看護士、貧困と在宅介護で追いつめられた母子家庭、それぞれの立場での苦しみが生々しく描かれていて...。
認知症、コワイもの。
どんなに一生懸命に介護したとしても、当の本人は、誰が面倒を見ているのか全く分からず、大声を出したり暴れたりしての抵抗や、徘徊そして行方不明。
しかも、悲しいことに、本来ならば手厚く盛り込まれるべきはずの介護保険は全く不充分で、よほど裕福でない限り充分な介護サービスの期待できない現状の蔓延。
それゆえ、在宅介護への精神的・経済的負担はとてつもなく大きく、介護会社での安い給与により長時間労働を強いられる職員や看護士へのストレスはとてつもなく大きい。
非介護老人の急死は悲しい、と同時に、ホッと一息ついて安心している人がいるのも事実。
人間の弱い本質をえぐっている描写には、まさに他人事じゃないと、強く感じた。
そのような気持ちにさせられる中での、不可抗力を装った40人以上の老人薬殺事件。
犯人は、容疑を素直に認めるものの、殺人は介護に一生懸命な介護のためであることを主張。
それゆえに、同情する世論も多く、複雑な心境の被害者家族の見守る中での裁判が進行してゆく。
いかに大量殺人を犯したとはいえ、結果として、介護地獄から解放された家族も多くいた。
犯人は、極刑に処されるべきなのか?
窮地に追い込まれて犯罪に走らせた社会が問題なのではないか?
疑問は最後の最後まで突きつけられた。
いまだに正解は出ない。
人間誰もが突きつけられる"一生の宿題"そのものだ。
介護に追いつめられる人々
正義にしがみつく偽善者
社会の中でもがき苦しむ人々の絶望
以上のような、あらゆる葛藤のぶつかり合いで、悶々とさせらる作品ながらも、文章の読みやさと、物語の展開の早さが、救いだったかな。
2013-03-18 |
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