冬虫夏草 本 梨木香歩
すでに10月31日木曜日に新潮社より発売か...。
『冬虫夏草』。
その言葉に関して、いにしえより語り継がれるこぼれ話や風俗や行事にまつわるエッセイかなあと思っていたけど...。
いわゆる"世にも不可思議な物語"とでも表現するのが、ふさわしいかなあ。
主人公は、疏水に近い亡友の生家の守りを託されている、新進文士・綿貫征四郎。
行方知れずになって半年あまりが経つ愛犬ゴローの目撃情報と、イワナの夫婦者が営むという宿屋に泊まってみたい誘惑から、家も原稿も放り出してまで分け入った秋の色彩増す鈴鹿山中にて、征四郎がしみじみと瞠目させられた、ありのままの体験談。
特に、目の当たりにしたのは、自然の猛威に抗いはせぬが心の背筋はすっくと伸ばし、冬なら冬を、夏なら夏を生き抜こうとする真摯な姿。
それは、人々にも、人間にあらざるものたちにも、見られて...。
まるで天に近い場所に過ごしているかのような日々そのもので...。
鈴鹿山中で繰り広げる心の冒険の旅そのものなんだろうなあ。
その旅の目的地である鈴鹿山麓の奥地、すなわち人の住まない代わりに化身のみ住むとされる、茨川という川の源流辺り。
人と見えても人ではないかも知れない愉快な化け物の所作や語り口と、征四郎が出逢う土地の人たちの活き活きしたお喋りは、絶妙な関西訛りの効いていることあって、充分に楽しめるし魅せらてしまうもの。
文章での土着性の表現は、やはり方言でしか生まれないことを、改めて実感させられる。
結果として、『冬虫夏草』という独特の言葉の響きだけで、購入して読書することになった単行本だけど、
2004(平成16)年1月発売の『家守綺譚』の続編であることを、お恥ずかしながら後で知ることになるなんて...。
先の『冬虫夏草』と同じ主人公の綿貫征四郎は、文明の進歩に今一つ乗り切れない"新米精神労働者"とされていて、四季折々の自然の"気"たちとの伸びやかな交歓の日々を過ごすらしく...。
例を挙げるならば、植物に好かれたり、狸に化かされたり、死んだはずの友人が訪れたり、拾った犬がなんだか尋常でなかったり、
例えそうであったとしても、大して驚くことのない日々が綴られていて...。
二冊ともに、ほんの少し昔の日本ならば、実在していたかもしれない不思議な話でいっぱい。
派手さはないものの、おかしくもあり、切なくもある、心和む単行本。
素直に、「あっ、日本ていいな」と、ノスタルジックな気分に浸りたい時に、軽く目を通してみるのがふさわしいだろうなあ。
2013-11-13 |
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