重松清 おすすめ ゼツメツ少年
遅まきながら、TBS日曜劇場『とんび』のビデオ録画分をやっと観終えて間もない頃、
人間の心の琴線に触れるかのような温かみの余韻の尾を引く中、何気に書店に立ち寄ったところ、先の『とんび』を手掛けた原作者・重松清の最新刊が目に入ったので、つい購入することに。
それは、9月20日金曜日に発売となった『ゼツメツ少年』。
今までの重松作品の集大成とも言える、異色ファンタジーのようで。
物語の内容は、小説家であるセンセイのもとに、不思議な手紙の届けられたことから始まって...。
「センセイ、僕たちを助けて下さい」
「僕たちはゼツメツしてしまいます」
"僕たち"とは、中学2年生のタケシ、小学5年生のリュウとジュンの、男女混合3人組。
共通点は、「自分に居場所がない」こと。
タケシは、かねてから優秀な兄と比較され、幼稚園でも学校でも家でも疎外され続けて...。
リュウは、かつてクラスの人気者だったが、いじめられた同級生を助けたことが原因で、執拗ないじめに遭うようになり...。
ジュンは、いじめられてはいないものの、家にいるのがつらい状況。
居場所のないものはゼツメツするしかない、と断言する3人は、センセイから「物語の中で生きること」を許してもらい、センセイと3人組との奇妙なやりとりが始まることに。
全体を通して振り返っての感触は、虚と実をせわしなく反復横跳びをしているかのような浮遊感漂う不思議な世界に引きずり込まれたかのよう。
その内容のほとんどが、センセイによる架空の物語。
かの3人組に居場所を与えてくれる人物が、必ず登場していて。
生涯一度だけの家出が、取り返しのつかない結果を招いた若き父親。
空に浮かぶ雲ばかりを撮り続ける謎の女性。
息子がいじめにあった屈辱からナイフを常備するサラリーマン。
それぞれの人物が、自分なりの方法で、3人組に「とりあえず、そのままの姿で生きてみろ」と。
それぞれの人物とは、3人組のそれぞれが"物語への登場を願った人物"像だが、彼らが読んでいくうちに架空ということを忘れてしまい、"本当に3人を救ってくれる実在の人物"であるかのような気持ちに。
そして各章の最後には、「センセイの報告」と題された取材ノート。
家族、幼稚園、学校などでの、それぞれの聞き込みを通して、3人組がいかに現実世界で生きづらいかが、明るみに。
そのような形式は、第1章から第5章そして最終章へ続いていき、その過程でセンセイにまつわる事実も明かされることになって...。
この不可思議な物語は、それぞれの人物、特に"ナイフさん"と呼ばれるサラリーマンからの言葉、
「生きてほしかったんだ」
というメッセージに集約されてゆく。
殺伐とした雰囲気に呑みこまれてしまえば、先のメッセージを忘れてしまいがちになってしまうから、悲しいもの。
生きる気力を取り戻すためだったら、夢と現実が混在しているなんて、もうどうだっていいんだ、と思えてきて、本当に泣きそうになってきた。
先日に観終えたばかりの『とんび』でもそうだけど、
重松清作品には、誰をも包む優しさと、それを阻むものに立ち向かおうとする強さが実感できて、
本当に素晴らしい。
2013-10-18 |
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