和田竜 最新作 村上海賊の娘
先日、日本映画専門チャンネルで放送された昨年2012(平成24)年11月に上映された映画『のぼうの城』を観終えた余韻の尾を引いている影響だからかなあ。
その勢いを駆ってか、すでに10月22日火曜日に発売された小説家・和田竜の最新作『村上海賊の娘』の上巻と下巻をまとめて購入。
いつもの仕事の合間を見ての読書とあって、いくらか難儀したものの、なかなか読み応えあった。
和田竜か。
1969(昭和44)年12月の大阪生まれで、広島市安佐南区川内育ち。
時代小説執筆の土壌は、小学生時代に初めて海賊の存在を知ることとなった想い出の場所である、広島県尾道市の因島水軍城と保管史料との出逢いからという。
早稲田大学政治経済学部卒業して、あらゆる職種を経ての2003(平成15)年12月、繊維業界紙で記者を務める傍ら、執筆したオリジナル脚本『忍ぶの城』で第29回城戸賞を受賞。
その『忍ぶの城』は、後の2007(平成19)年3月に、犬童一心監督、アスミック・エースエンタテインメントとキアロスクーロ(IMJエンタテインメント)の共同制作作品として映画化が準備されていることを公表(後に同作の小説化作品『のぼうの城』の映画化という形に変更へ)。
そして、2007(平成19)年11月、『忍ぶの城』を自ら小説化、『のぼうの城』として出版し、小説家デビュー。
同作は、翌2008(平成20)年7月、第139回直木賞候補作に選ばれることに。
それから、紆余曲折と自身の脚本による映画化を経ての、足かけ6年...。
4年がかりで注ぎ込んだ最新作『村上海賊の娘』を読むことに。
時は、1576(天正4)年から始まって、
織田信長は、すでに石山(後の大坂城になる場所)本願寺に退去を求め、天王寺などに砦を築き上げ兵糧攻めの体制に。
陸路の兵站は分断され、本願寺に籠もった2万人弱の門徒たちは飢餓に瀕しており、海路参戦する門徒たちの運搬するわずかな米だけが、彼らの命をつないでいる状態。
門主・顕如は、上杉謙信に援助を請うと共に、毛利家に十万石の米を請うことに。
成否は「海賊王」と呼ばれた村上武吉の帰趨にかかっていて...。
いわゆる村上水軍には三家あり、能島・因島・来島のうち、折しも最大勢力の能島村上の娘・景姫(きょうひめ)が、上乗りで難波へ向かうことに。
全体を通して第一次木津川合戦の史実に基づいた時代背景が舞台。
伊予から本願寺に向け 瀬戸内海を行く門徒百姓衆、瀬戸内を支配する村上海賊、信長についた泉州武士と淡輪の海賊・眞壁一族たちの攻防を描いていて、景姫の成長が物語の主軸。
実際に読み終えて、
まさにビジュアライズを意識して描かれていて、読むうちに映像がまざまざと浮かび上がってきた。
著者曰く、いつか女性を主人公に海賊小説を書いてみたかったのだという。
事実、荒くれ男だちに混じった紅一点、ということになるものの、長身で怪力で男勝り。
平穏な日常においては、親の立場からすれば、嫁の貰い手がない(?)と嘆いてしまいがち(?)かもしれないけど...。
やはりいつの時代であれ、否応なく死の恐怖に切迫させられた時でないと、人間の本性は見えてしまうものなんだろうなあ。
いずれにせよ、合戦の描写に関しては、著者のいう読者から面白いの一言をもらえれば作家冥利に尽きるなどと話した通り、まさに人間たちの思いのぶつかり合いに重点を置いていて、本当に面白い。
並行して笑いもふんだんに盛り込まれ、特に泉州武士の一挙手一投足、一言一句など、笑わずにいられないくらいの面白さ。
いわゆる底抜けのアホ、小狡い裏切者など、いろいろと登場していて、皆が魅力的で憎めない。
この実感は、とにかく必死で生き抜くという人間の姿に、理屈抜きに惚れ込んでしまうからなんだろうなあ。
「生き抜く」ということ。
じっくりと考えさせられる名作として、後世に長く語り継がれる予感が...。
2013-11-02 |
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