長州ファイブ 感想
前置きが長くなってしまいそうだ。
不謹慎ながら、4月30日水曜日のハイビジョン映像株式会社の東京地裁からの破産手続き開始決定が、心にのしかかっていたからかもしれない。
あの2006(平成18)年10月下旬に山口県・北九州市で先行公開され、以降順次全国公開。
第40回ヒューストン国際映画祭でのグランド・レミ賞(グランプリ)受賞の映画『長州ファイブ』を制作した映画制作会社が...。
1964年(昭和39)年10月設立。
代表の水野清氏は学卒後、映画監督のマキノ正美氏に師事し、助監督を経て、多数のテレビ・ラジオの演出や制作・企画に参加した経歴があって...。
当初はテレビコマーシャルおよびラジオドラマの制作を主に手がけ、1973(昭和48)年に半年間放送したラジオドラマ『日本沈没』が話題となったこともあったという。
国の行く末を見据えた心に残る作品の制作を重視する会社だったのに...。
難しかったことを思うと、やるせないや。
改めて鑑賞してみて、心に長く残る作品であることを実感して...。
時は幕末、攘夷思想が吹き荒れる長州藩にて...。
本当の攘夷とは何かを実感するため本当の英国の姿を見てみたいという一心から、密航が見つかれば死罪とする当時の国禁を犯してでも英国留学をし、実際の技術を学んだ5人の長州藩士の物語。
秘密留学のため秘かに乗り込んでいた英国船が横浜港から無事出港したのは、1863(文久3)年5月12日 (旧暦)。
それは長州藩が「攘夷決行」の叡慮および幕命にしたがって馬関攘夷戦争を開始した2日後のこと。
長州藩の若き志士は5人。
まず、この物語の主人公は、山尾庸三(松田龍平)。
明治維新後、法制局の初代長官を務め、のちの東京大学工学部の前身となる工学寮を創立。
野村弥吉のちの井上勝(山下徹大)は、のちの鉄道庁長官。
日本の鉄道の父として鉄道事業の発展に尽力。
志道聞多のちの井上馨(北村有起哉)は、のちの初代外務大臣に。
伊藤俊輔のちの伊藤博文(三浦アキフミ)は、のちの初代内閣総理大臣に。
遠藤謹助(前田倫良)は、のちの造幣局長に。
彼らは、当初より「日本」を意識していたのではなく、「日本」や「日本国家」建設よりも「藩」であり、その中の「長州藩」。
すなわち、彼らは、個別具体的で「藩」なもののために渡航し、勉学に励んだのであって、「日本」や「世界」や「地球」といった漠然とした「理念」のために実行したのではなかった。
そして、産業革命真っ只中のイギリスで、こんな国を相手に闘っても勝てるわけがないと実感、改めて「日本」を意識させられることに。
同時に、「文明」の国の別の側面、つまり、貧困や差別の下にマイナーな人々との出会いもきちんと描き、彼らは、単に産業革命下のイギリスの華やかな面だけを見てきたわけではないという点も、興味深かった。
中でも、工場で働く山尾庸三が、純愛を抱く聾唖の女性エミリーとのエピソードが心に響いて...。
反面、歴史の重みより、エンターテインメントとしての意識がいくらか突出ししてしまったかなあ。
帰国後の山尾は、やがて「日本工学の父」となり、盲・聾の教育の普及にも努め、日本最初の盲学校設立に尽力したという。
監督は五十嵐匠監督は、伝記的映画が得意分野。
役者同士の台詞のやりとりにおいては、一本調子になりそうなところをフッと外す間合いが絶妙だし、場面転換も動から静、急から緩への切り換えも巧妙だった。
全体を通して、歴史的背景においても重すぎず、真面目な内容でありつつも面白おかしい描写もあり、心に染入る場面もあり、素晴らしき見応え。
そして、現在は当たり前になっている日本の鉄道、造船、造幣といった文明と経済発展の素地となる歴史的背景をじっくりと学べる素晴らしい映画だった。
なお、イギリス留学の費用は、2004(平成16)年当時の貨幣価値にして約5億円で、130日の航海後の5人は飢えたカラスのようだったとの記録。
いかなる状況であれ、生き抜くことは大切そして切実。
決して忘れない。
余談ながら、来年2015(平成27)年放送のNHK大河ドラマ『花燃ゆ』の時代背景は幕末から明治中期。
舞台そして出身は、長州藩のちの山口県。
物語の主人公は、明治維新そして明治政府の立役者となる門下生を育成した吉田松陰の末妹であり、久坂玄瑞の妻となる杉文のちの楫取美和子。
主演はNHK大河ドラマ初登板となる井上真央。
兄である松陰と久坂玄瑞、高杉晋作、伊藤俊輔のちの博文、志道聞多のちの井上馨、品川弥二郎など松下村塾の弟子たちの人間模様を織り交ぜながら、幕末から明治維新へ向けた激動の時代を描いていく構想とのこと。
もしもならば、「長州ファイブ」をどのような描き方をするんだろうか?
ヒロインとの直接の接点はあるんだろうか?
いや、伝聞としてなるべく克明に伝えられる描写としてか?
あの2011(平成23)年放送のNHK大河ドラマ『江~姫たちの戦国~』のような"ファンタジー大河"にさえならなければ、先の『長州ファイブ』や、1977(昭和52)年放送のNHK大河ドラマ『花神』に匹敵するはず。
そうなることを祈って...。
その時までに、目を通しておこうっと。
昨年2013(平成25)年6月発売の『あなたの知らない山口県の歴史』(山本博文 / 洋泉社)で長州藩そして山口県の奥深さを。
そして、山口県初の『焼くだけでわかる、地鶏の旨み。』を肴に、『いも焼酎 長州侍 1800ml』を味わいながら...。
2014-05-09 |
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